股関節の外科

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股関節

スタッフ: 岡本純典 若間仁司
大学院生:松山洵也 中村海斗 雑賀崇文
非常勤:大原英嗣

股関節の外科では、人工股関節置換術(図1-8)と再置換術(図9-11)の診療に特化し、2週間の入院後、近隣の回復期リハビリテーション病院に転院して頂いています。近年、周辺の医療機関からは内科的合併症を有する重症度の高い方や超高齢者(図5)のご紹介も増加しています。初診から手術までの待機期間は、1から2か月ですが、疼痛が著しい例や早期に手術を計画すべき例に限っては、当教室の関連病院(後述)へ依頼し、執刀させていただくことがあります。

1.人工股関節置換術(THA)と再置換術

これからの超高齢社会に向け、向後も増加が見込まれる整形外科の代表的手術のひとつであり、除痛効果が期待できます。対象は、保存的治療の効果が見込めない変形性股関節症や大腿骨頭壊死、関節リウマチ等による股関節痛が殆どです。最近は、急速破壊型股関節症も増加傾向です。2018年、本邦では年間約68,000件のTHAが行われていますが、選択される手術進入路やインプラントの固定や表面加工の方法は未だ一様とはいえず、医療機関や症例により治療戦略や器種も様々とされ、画一化されていません。



図1 当教室におけるTHAの手術件数と推移


図2 当教室で行うTHAの3大特徴


図3 寛骨臼への塊状骨移植を併用した骨セメントを用いた人工股関節置換術(THA、50歳台女性)


図4 寛骨臼への塊状骨移植を併用したセメントTHA(60歳台女性)


図5 超高齢者に対するセメントTHAと塊状骨移植の一例(90歳台女性)


図6 急速破壊型股関節症に対する同種骨移植を併用したセメントTHA(80歳台男性)


図7 骨切り術(骨盤と大腿骨)後のセメントTHA(60歳台女性)
寛骨臼形成不全に対し、当科で30歳頃に骨切り術を行いました。経過は良好でしたが、55歳頃から疼痛と画像上の関節症の進行が見られ、THAを行いました。疼痛は消失し、経過2年を経過し観察中です。


図8 骨盤骨切り後のセメントTHA(60歳台女性)
寛骨臼形成不全に対し、当科で30歳頃に骨切り術を行いました。経過は良好でしたが、60歳頃から疼痛と画像上の関節症の進行が見られました。THAをお勧めし、術後に疼痛は消失しました。3年を経過し、現在も観察中です。


図9 THA術後感染(右側)に対する二期的再置換術(70歳台男性)
特発性大腿骨頭壊死症に対しTHAを行いましたが、術後感染を生じました。人工関節を抜去し、抗生剤を骨セメントに含有させた約8週後に再置換術を行いました。術後4年の現在、明らかな再発はなく経過観察中です。


図10 繰り返すTHA術後脱臼に対する再置換(80歳台女性)
変形性股関節症に対し、50歳頃にTHAを行い、術後20年頃から脱臼を繰り返すため再置換術を行いました。術後2年の現在、再脱臼はなく、引き続き観察中です。




図11 THA術後大腿骨インプラント周囲骨折に対する再置換(60歳台女性)
THA術後4年を経過し、骨折のためプレートと長いステム(大腿骨インプラント)を用いた再置換術を行いました。術後2年の現在、経過観察中です。

2002年、当教室におけるTHAの手術進入路を後方から前外側進入法にひとつであるDall(ドール)変法に変更し、以降は一貫して骨セメントを用いた手技に統一しています(図2-6)。最小侵襲や流行の最先端のインプラントや概念ではなく、歴史と理論に裏打ちされた技術を踏襲しつつ、独自に僅かながらの改良を加えつつ現在に至ります。この方法は、手術時年齢や変形の重症度を問わず応用範囲が幅広く(図3-6)、最小限の筋腱切離による機能回復と視認性に優れた広い術野を確保、確実なセメントテクニックによる精度の高いインプラント設置(カップの原臼設置)を可能とし、超長期に耐用できる良好な治療成績に繋がる利点があります(図2)。一部の特殊な例を除き、原則は解剖学的骨頭中心位置を目標に、積極的に寛骨臼側への自家骨移植を併用し、骨温存を図った上で正常に近似した股関節機能に再建します(図3-5)。18年以降、骨移植に使用する螺子をチタン合金製から生体内吸収性骨接合材(ハイドロキシアパタイト粒子とポリ-L-乳酸の複合体)に変更するなど(図3-5)、細かな手技の変遷はありますが、執刀を担当する医師全員が均一の手技と概念で臨むことができるよう取り組んでいます。一方、自家骨のみでの再建が困難な欠損の著しい例に対しては同種骨移植術を併用しています(図6)。また、骨切り術後の長期経過例のなかには疼痛の増悪や関節症の進行が見られ、人工関節置換術を追加している例もあります(図7, 8)
近年、世界的にもTHAの手術手技が向上しているにも関わらず、超高齢社会に向けて上記のような初回置換術が増加し、その煽りを受け一定の頻度で起こり得る再置換術の増加が懸念です。その原因は様々ですが、当科においても感染(図9, 12)や脱臼(図10, 13)、インプラント周囲骨折(図11)、無菌性のゆるみの合併症の発生例はあります。再置換術を終点(エンドポイント)としたインプラント生存率は、初回置換術後20年で85%ですが、これからも少なからずとも起こり得る可能性のある再置換術に対しても初回置換と同一の進入路と概念(図2)により良好な機能回復に導くことができると考えています。再置換術は、初回置換を比較して難易度も高く、様々な課題があります。縦断的検討が可能な長期にわたる定期的な経過観察が重要と考えています。
当教室では最新の知見を得るため精力的に研鑽を積み重ね、研究資金を獲得しています。


図12 THA術後2年以内の感染率


図13 初回THA術後2年以内の脱臼率

2.股関節唇損傷や関節軟骨障害 Femoroacetabular Impingement (FAI)に対する鏡視下手術*
股関節屈曲時に寛骨臼(骨盤)と大腿骨近位部が衝突することによって生じる関節唇や関節軟骨の損傷が主な病態です。この疾患概念が提唱され20年程度ですが、これまで原因の特定できない股関節部痛の一部に、これを基盤とした関節症が含まれている可能性があります。若年者でFAIを発症する例には競技レベルの高いアスリートも多く、復帰のために手術を受ける方もおられます。
3.寛骨臼形成不全に対する寛骨臼移動術*
寛骨臼の大腿骨に対する被覆が不足することで生じる関節不安定性が著しい寛骨臼形成不全は、比較的早期に変形性股関節症へ進行することが明らかになっています。これを遅らせるために考案された寛骨臼移動術(寛骨臼回転骨切り術)を適切な時期に行うことで、長期の関節温存効果が期待でき、良好な治療成績を得ています。

*これらの症例に対しては、下記の医療機関と密接に連携し、診療に従事しています。

〒569-8686 大阪府高槻市大学町2番7号
電話 072-683-1221(代表)