担当:野口裕介、清水博之
大阪医科薬科大学整形外科の肩スポーツ班は、(1)患者様に対する治療だけでなく、(2)投球障害肩と野球肘の予防を目的とした野球選手の検診や、(3)肩の病態解明や治療成績向上を目的とした研究活動も積極的に行っています。
(1)当院における手術治療
肩関節疾患は腱や靭帯に起因することが多いため、保存的治療で症状の改善が得られない場合には関節鏡視下手術を行っています。変形性肩関節症や関節リウマチに対しては人工肩関節置換術なども行っています。以下、代表的疾患とその治療方針および術式について紹介します。
1. 腱板断裂
肩の痛みと可動域制限を主訴として来院されます。MRIにより腱板断裂の診断はほぼ100%可能ですので(図1)、腱板断裂が疑わしい患者様に対してはMRIを撮影しています。T2強調画像により断裂部は高輝度となります。単純X線所見からも腱板断裂を疑うことはできます。腱板断裂の患者様の多くは肩峰下に骨棘を認めます(図2)。治療として、60歳以下の患者様や、60歳以上でも活動性の高い患者様に対しては、関節鏡視下腱板修復術を勧めています。当院では、基本的にはすべての腱板断裂患者様に対して関節鏡視下手術を行っています。一次修復可能な腱板断裂に対してはスーチャーブリッジ法による修復を行なっております(図3)。
中断裂

一次修復不能な腱板断裂
(陳旧性断裂のために断裂部の変性と萎縮が強く、修復できない症例)

一次修復不能な腱板断裂に対して、三幡輝久先生が提案した術式”関節鏡視下肩上方関節包再建術“を行います(図4,5)。術前に自動挙上66度(20-120度)であった患者様が、術後最終調査時には自動挙上165度(150-180度)へと大きく改善し、スポーツや肉体労働への復帰率も高くいことから、患者様の満足度も高い治療です。
図4:肩上方関節包再建術
また、一次修復可能ではあるものの、腱が薄くなっていたり、変性が強く、術後再断裂が危惧される場合には”肩上方関節包再建術を併用した腱板修復術“を行っています(図6,7)。これにより、従来の方法よりもさらに術後再断裂が生じにくくなり、修復した腱板の治癒率が高くなるという結果を得ております。
2. 反復性肩関節脱臼
肩の痛みと脱臼不安感を主訴として来院され、その原因の多くは関節唇と関節上腕靭帯の機能不全と考えられ、関節造影後MRIと3DCTにより診断が可能です(図8,9)。治療として、ほとんどの場合は関節鏡視下関節唇修復術を行うことにより症状は消失します。脱臼時には関節上腕靭帯が弛緩していることが考えられるため、診察所見と関節鏡所見により関節上腕靭帯の縫縮を加えることもあります(図10,11)。我々の行っている関節鏡視下関節唇修復術の治療成績は良好で、術後に再脱臼した患者様は数パーセント程度です。またスポーツ復帰も可能です。骨欠損が大きい場合には烏口突起移行術などを併用した関節制動術を行います(図12,13) 。
図8 関節造影後MRI

3. 投球障害肩、SLAP病変
野球選手の中には肩関節の痛みのためにプレーが困難となる選手もいます(図14,15)。当院ではそのようなスポーツ障害に対する治療も行っています。投球障害肩の病態はかなり複雑でかつ治療は難しいと考えられています。投球障害肩の多くは理学療法で改善しますが、関節唇や腱板の損傷が大きい場合には保存的治療で改善せずに関節鏡視下手術を行っております(図16,17)。また当院では、リハビリテーションにも力を入れており、医師と理学療法士が密に連携しながら、患者様一人ひとりに適した治療を行っています。
図14:投球障害肩にみられる肩甲上腕関節内の病変

図15:インターナルインピンジメント

4. 変形性肩関節症
日本人の変形性肩関節症(図18)の頻度は欧米に比べて少ないとはいえ、変形が強く保存的治療を行っても症状が改善しない場合があります。その場合は関節症性変化の程度や腱板の状態に応じて人工肩関節置換術(図19)、リバース型人工肩関節置換術(図20)を行っております。
図19 人工肩関節置換術の術後X線 図20 リバース型人工肩関節置換術の術後X線

5. 関節リウマチ
関節リウマチに(図21)よって肩関節の滑膜炎や破壊などが起こった場合には、関節鏡視下滑膜切除術や人工肩関節置換術(図22)、リバース型人工肩関節置換術を行っております。
図21 関節リウマチの単純X線

6.肩関節拘縮(凍結肩)
肩関節拘縮の多くはリハビリにより改善します。しかし保存的治療によっても改善しない場合や、痛みが強い場合、夜間痛による睡眠障害が続く場合には、関節鏡視下関節授動術を行っています(図23)。手術は小切開で行うことが可能で、術後成績は良好です
(2)投球障害肩、野球肘の予防を目的とした野球選手の検診
我々は毎年高校・大学野球選手の検診活動も行っています。理学療法士による可動域や筋力測定のほか、超音波検査、専門医による診察などを行い、投球障害肩、野球肘の予防にも力を入れています。また検診時のデータをもとに、投球障害肩、野球肘に関する研究も行っています
(3)肩肘の病態解明や治療成績向上を目的とした研究活動
我々は病態解明や治療成績向上を目的として、肩肘関節疾患に対してあらゆる観点から研究活動を行っております。
1. 野球検診からの臨床研究
共同研究機関:第一東和会病院、土居整形外科
2. 当院における治療成績結果からの臨床研究
3. CTやMRIを用いた画像解析
共同研究機関:大阪大学整形外科運動器バイオマテリアル学講座